令和4年度(2022年度) 論文題目

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卒業論文(70件)

論文題目 指導教員
音楽聴取による情動誘導が幼児の実行機能に及ぼす影響 池田
ペット動物の愛着がストレスの強さと精神的健康に与える効果について 吉田
日常のグループにおけるかかわりが青年期のメンタルヘルスに及ぼす影響―PCAグループの観点からの検討― 塚本
デートバイオレンスにおける合理化尺度の作成と自由記述による検討 越智
性暴行中において性被害者男性が示す性的反応に対する第三者評価の検討 松嶋
アタッチメントスタイルと対人ストレスコーピング、および精神的健康について 吉田
簡易的な対処法としての呼吸法がスピーチ中のあがりに与える影響-大学生を対象にした注意訓練との比較検討- 塚本
認知的負荷が嘘に及ぼす影響 越智
両親の養育態度が結婚観に及ぼす影響 吉田
パニック症に対するリラクセーション法の作用の検討―数理モデルを用いたシミュレーションによる検討― 国里
居心地の良さは関係性によって変化するのか-親密段階ごとの対人場面しての視点と相互依存性の観点から- 下斗米
甘味と向社会的行動の関連の検討 大久保
物語体験における読み返し・見返し 高田
絵本体験のスタイルの違いが大学生のストレスに及ぼす影響:読み聞かせと一人読みによる比較検討 塚本
社交不安症の認知モデルに関する形式理論化の試み 国里
自我消耗の妥当性の検討-自我消耗と精神疲労を比較して- 池田
自己肯定感と身体的自己概念について 岡村
居場所感と被援助志向性が孤独感に与える影響 加藤
自己受容と他者受容のバランスおよび抑うつとの関連 岡村
絵文字の使用個数が対人印象を与える影響 大久保
オンライン授業の導入・授業形態・性格因子が大学生活における意欲に与える影響の検討 加藤
飼育環境の違いがキンギョ(Carassius auratus)の学習能力に及ぼす影響
性的嫌悪感と性格特性の関連 小杉
自己愛傾向者における援助要請スタイル及び反応スタイルの特性と抑うつ、不安への影響 吉田
顔画像の閾下呈示が及ぼす認知課題への影響 石金
競技未経験者におけるプレッシャー状況下でのパフォーマンス向上 大久保
受け容れがたい事象への多様な意味づけ様態についての検討-意味づけが自己受容をどのように規定するか- 下斗米
自己中心性が反社会的行動に及ぶ影響 越智
言語教示による内的文脈が身体所有感に与える影響
マウス網膜神経節細胞の同期発火に運動刺激の連続呈示が及ぼす効果 石金
心理学生における自律的な学習動機づけ像の検討 加藤
舞台芸術における感動体験 高田
刑務所出所者に関する知識がスティグマ及び社会的距離に及ぼす影響 松嶋
ルイスキャロルと桜庭一樹の描く『少女性』についての比較と考察 高田
青年期における一人称の使い分けとペルソナとの関連性 高田
唾液アミラーゼを指標とした音楽がストレスに及ぼす効果の検討 石金
協力が笑顔に対する信頼度に与える効果 大久保
スマートフォンの背景色がVDT作業時の身体的負担や作業意欲に及ぼす影響 岡村
嫉妬の生起およびその後の影響について-嫉妬の性質および嫉妬の原因帰属の観点から- 下斗米
自己内省及び自己開示能力が自律的調整方略へ与える影響の検討
コロナ禍が殺人事件の量と質に及ぼした影響 越智
青年期の子どもによる夫婦間葛藤の認知と抑うつスキーマおよびネガティブ反すう傾向との関連 吉田
放課後等デイサービスにおける発達障害のある子どもに対するアナログゲームを用いた余暇活動支援に関する研究 塚本
利用するSNSの種類による主観的幸福感の違いとSNS利用から起こる感情への対処法の検討 岡村
不安抑制の生起に作用する制止学習過程の検討
「キャラ」を介した付き合い方が友人関係に与える影響について 松嶋
各種栄養素の摂取行動がセルフコントロールに及ぼす効果 越智
自己開示と援助要請の両立機序に関する検討-相談相手との関係性についての意味づけの観点から- 下斗米
モラルライセンシング効果が他者の印象評価に与える影響について 池田
蛙化現象になり得る心理的原因の検討について 岡村
対人ストレスコーピングと過剰適応における自傷行為との関係性 加藤
心理学的ネットワーク分析を用いたスポーツのパフォーマンスと情動の関係 国里
M-1グランプリの評価得点は、所属事務所によって偏りが存在するのか 小杉
事象関連電位を用いた転置文字列の処理過程の検討 石金
自尊心と表情に対する敏感さの関係 大久保
楽観性・悲観性が将来の出来事に対する予測に及ぼす影響 塚本
回転錯視を利用したゼブラフィッシュの追従行動の研究 石金
自我の混乱と思春期の内 的世 界 ―新 世 紀エヴァンゲリオンと Serial Experiments Lain に見 る原初的一体感 高田
ほめを与えるエージェントの違いが幼児・児童のその後の課題の動機づけに与える影響について 池田
アクションゲームを用いたwork ethicsの検討
自己受容・他者受容を指標としたコロナ禍における大学生の友人関係の変化の検討 松嶋
被害者の社会的立場が加害者に対する第三者罰の程度に与える影響の検討 池田
名前表記の親近性と自尊心が視覚的認知処理に与える影響 小杉
潜在的パターン知覚と心的回転能力の関係 小杉
適切な自己開示とソーシャルサポートの関連、及びストレス反応に与える影響についての検討 吉田
抑うつが攻撃性・衝動性を介して攻撃行動に与える影響の検討 松嶋
PTSDにおける持続エクスポージャー療法とEMDRの比較―ネットワークメタ分析による検討― 国里
オンラインゲーム上の人間関係と攻撃性とうつ性の関連性について 石金
共感性が評価懸念とコストバイアスに与える影響 加藤
援助利益の促進による援助要請の促進研究 国里

修士論文(11件)

視線のパーツベース処理と逆空間ストループ効果 -倒立顔効果と表情による検討-

指導教員: 大久保

要旨を読む

他者の視線は, その人物が環境中のどこに注意を向けているのかを示す社会的手がかりである。我々は, 視線方向を把握することで, 相手の興味や関心, 将来の行動を推し量っている。 視線方向を処理するメカニズムは, 近年空間ストループ課題から調べられている (Marotta et al., 2018) 。この課題で実験参加者は, 視野周辺に提示されるターゲットの向きを, キーボードを押して判断する。 ヒトの視線刺激をターゲットとした視線空間ストループ課題において, 視線方向と提示位置が不一致するとき (不一致条件) , 一致するとき (一致条件) と比べて方向判断が早くなる。これを逆空間ストループ効果という。 逆空間ストループ効果は, 矢印刺激をターゲットとした空間ストループ課題で生じる通常の空間ストループ効果 (すなわち, 一致条件のとき, 不一致条件と比べて反応が早くなる) とは真逆の結果パターンである。 逆空間ストループ効果は矢印に対するものとは異なる, 視線に対する特殊な反応選択のメカニズムを示唆している。

Jones (2015) は視線空間ストループ課題のターゲットとして提示する人物の表情 (怒り, 幸福, 中立, 恐れ) が逆空間ストループ効果に与える影響を調べた。 その結果, 人物が接近行動に関する表情 (幸福, 怒り) のとき, 回避行動に関する表情 (恐れ) よりも逆空間ストループ効果が大きくなった。ヒトは顔認知において顔の個々のパーツを 一つのまとまった表象として捉える, すなわち顔の全体的処理を行う (Yin, 1969) 。表情による逆空間ストループ効果の変調は, 実験参加者が視線方向判断時に視線と視線領域以外の顔のパーツの情報を統合的に処理したことを示し, 顔の全体的処理を示唆している。

本研究では, 視線空間ストループ課題における倒立顔効果を調べ, 顔の全体的処理と視線のパーツベース処理のどちらが逆空間ストループ効果に起因しているかを検証した。 倒立顔は, 顔の全体的処理を阻害する。視線空間ストループ課題における視線処理が顔の全体的処理に基づくならば, 倒立顔では逆空間ストループ効果が弱くなる, あるいは生じないと予測される。 一方, 顔の全体的処理とは独立した, 眼の形態的特徴に基づく視線のパーツベース処理に基づくならば, 正立顔と倒立顔の両条件で逆空間ストループ効果が生じると予測される。

実験1A・実験1B Marotta et al. (2018) に基づき実験を実施した。実験参加者は視野周辺に提示される正立顔あるいは倒立顔ターゲットの視線方向をキーボードを押して判断した。 実験1Aでは, 正立顔と倒立顔をブロックで分けて提示し, 実験1Bでは同一ブロック内で提示した。いずれの実験も全てニュートラルな表情を使用した。 その結果, 2つの実験を通して倒立顔のとき正立顔よりも反応時間が遅くなり, 全体的な反応時間で倒立顔効果が認められた。一方, 正立顔と倒立顔で同程度の逆空間ストループ効果が生じ, 倒立顔効果は逆空間ストループ効果の生起と効果の大きさには影響がなかった。これらの結果から, 逆空間ストループ効果は視線のパーツベース処理に基づくことが示された。

実験2 実験1A, 1Bより, 視線のパーツベース処理が逆空間ストループ効果を生じさせていた。ただし, この結果は表情による逆空間ストループ効果の変調を報告した先行研究と矛盾する。 そこで実験2では, 倒立顔効果と視線ターゲットの表情 (怒り, 幸福, 中立, 悲しみ) との相互作用を検討し, 先行研究の知見を倒立顔操作の観点から再評価した。実験の結果, 実験1A, 1Bと同様に倒立顔は全体的なパフォーマンス速度を低下させるものの, 逆空間ストループ効果の生起や効果の大きさには影響を与えなかった。また, 表情の変調効果は顔の向きに関わらず観察された。 これらのことから, 視線のパーツベース処理が支持された。

総合考察 3つの実験を通じて, 倒立顔のとき, 正立顔と比べて全体的な反応時間を遅延した。倒立顔は, 顔の全体的処理を阻害し, 顔の背景から視線を抽出する処理の段階で処理速度の遅延をもたらしたと考える。 一方, 倒立顔は逆空間ストループ効果の生起や効果の大きさには影響を与えなかった。抽出された情報はパーツベースに処理が行われたため, 逆空間ストループ効果は倒立顔の影響を受けなかったと考える。 表情の結果もパーツベース処理を支持するものだった。これらの実験結果から, 逆空間ストループ効果は眼領域の局所的特徴に依存する視線のパーツベース処理に基づくことが示された。


個人を取り巻く対人的環境との間で生じる個人志向性と社会志向性の持ち方による不適応様態の検討 ―個人-環境適合達成のための臨床的介入への示唆の検討―

指導教員: 加藤

要旨を読む

以上を通して、本研究では、周囲との関係性の中で苦悩を抱える人々の支援において、苦悩を抱える個人とそれを取り巻く対人的環境の適合のための支援のあり方を議論し、 個人-環境適合達成のために個人と対人的環境の持つ力をいかに引き出せるかを明らかにすることを目的とした。

調査方法について、?年期および成人期の322名にwebアンケート調査を行った。具体的な測定内容としては、(1)個人を取り巻く対人的環境との関係性の持ち方について、(2)対人的環境の構造、 (3)対人的環境との間で生じる2志向性の持ち方について、(4)現在抱えている心理的苦悩について、(5)現在の自己のあり方について、の大問5問であった。

結果について、第1に、ターゲットパーソン(以下、TP)の機能性および関係性を把握し、どのような対人ネットワーク(以下、対人NW)を構成しているのかを検討するため、 TP27項目に対して階層的アイテム・クラスター分析を行った。その結果、協働集団、世間集団、相補集団、示唆集団、権威集団、知識集団、規範集団、情緒集団の8クラスターが抽出された。

第2に、対人的環境との関わりの認識、その中で生じる2志向性のバランス、2志向性からの既有自己概念への影響、それらを経た心理的苦悩の生起というプロセスを検討するため、 共分散構造分析による全4概念の一方向の影響関係を仮定した多重指標モデルを分析した。主要な結果としては、第1水準から第2水準への影響過程として、対人的環境から個人志向性、社会志向性への影響過程は、 どちらも有意な正の影響を及ぼしていた。第2水準から第3水準への影響過程として、個人志向性から自己への影響、社会志向性から自己への影響への影響過程は、どちらも有意な正の影響を及ぼしていた。 第3水準から第4水準への影響過程として、自己への影響から低個人志向性・高社会志向性で生じる心理的苦悩(以下、低個・高社苦悩)、自己への影響から高個人志向性・低社会志向性で生じる心理的苦悩(以下、高個・低社苦悩)への影響過程は、 どちらも有意な負の影響を及ぼしていた。また、社会志向性から低個・高社苦悩への影響過程は、有意な負の影響、社会志向性から高個・低社苦悩への影響過程は有意な負の影響を及ぼしていた。第4水準から第5水準への影響過程として、 高個・低社苦悩から重篤な苦悩への影響過程は、有意な正の影響を及ぼしていた。

第3に、心理的苦悩の類型による様々な不適応様態を把握するため、心理的苦悩の各下位尺度の標準化得点を用いた階層的サンプルクラスター分析を行った。 分析の結果、適応的過剰適応群、適応群、適応的自己中心群、無適応的過剰適応群、無適応群、過剰適応群、自己中心群の7クラスターが抽出された。

第4に、多様な不適応様態である7つのクラスターがどのような対人的環境との関わりや2志向性のあり方、そこから生じる既有自己への影響から生じるのかを検討するために、 全4概念の変数を用いた多群判別分析を行った。その結果、第1軸は重篤度を判別する軸、第2軸は自己中心的様態と過剰適応様態で生じる苦悩を判別する軸、第3軸は適応的な様態において、 2志向性の持ち方による苦悩のばらつきの度合いを判別する軸と解釈された。心理的苦悩の類型ごとに、対人的環境、2志向性、自己のあり方がどのように影響を与えているのかを確認するため、 標準化判別係数を算出した。その結果、自己への影響は、個人志向性と社会志向性の両方から有意な正の影響を受けていた。そして、2志向性が高まることにより自己へのポジティブな影響が高まると、 低個・高社苦悩と高個・低社苦悩はどちらも低下していた。さらに、高個・低社苦悩が重篤な苦悩に有意な正の影響を及ぼし、自己への影響により高個・低社苦悩が低下することで、重篤な苦悩の高まりも抑えられていた。

多重指標モデルの結果から、適応的な自己であることや、心理的な苦悩を抑えるためには、個人志向性と社会志向性の2志向性のバランスを保てていることが必要であるということが考えられる。 そして、多群判別分析の結果、2志向性のバランスを保ためには、生活空間内に、特定の機能を持つ他者や集団だけではなく、相補的な機能を持つ多様な対人的環境を持つ必要があることが見出された。 以上のことから、個人-環境適合を達成するために、個人に対するアプローチとしては、ナラティブセラピーのような、クライエントが持っているが機能性をうまく発揮できていない他者や集団に対して クライエントが持っている意味づけをセラピストとクライエントが協働して意味づけを新たに作り出していくことが可能であると考えられる。環境に対しては、心理教育や個別のカウンセリング、コンサルテーションを通して、 環境が発揮することができていなかった力(機能性)を発揮できるよう促すことが期待される。


投影法を使用した、陰キャ・陽キャ概念とアイデンティティの関連の検討

指導教員: 高田

要旨を読む

この陰キャ陽キャはスクールカーストと関係し、いじめの原因となる可能性も示唆されている。一方、現在では意味が変化し、中立な意味での性格の特性であるという意味で使用されることや陰キャをポジティブな意味で使用する場面が見られる。 この意味の変化として、アイデンティティと関連があると考えられた。アイデンティティの拡散の時期には、自分のアイデンティティを守るために他者をステレオタイプ化するために使用され、アイデンティティが確立された後は、単なる陰キャ陽キャを 性格として考えると考えられた。このため、用語の概念を理解し、アイデンティティとの関連が確認されれば、アイデンティティの確立を促し、自尊心等をより高めることに繋がると考えられる。本研究では、用語の意味とアイデンティティの関連を より実態に即したものにするため、投影法であるMAPSを援用して実験を行った。MAPSは背景画像に人物画像等を配置し、全体の物語を語る検査である。MAPSは検査場面が日常場面と類似する特徴があり、検査で語られた内容が受検者の実際の反応を 表しやすい特徴がある。また、使用する背景に影響された反応が得られる特徴があり、背景を変化させることで成長によるアイデンティティの変化を確認しやすいと考えられた。各キャラの特徴を把握するためにインタビューを行ったところ、 「コミュニケーション能力」「対人関係」「活動」「外見」「性格」の5つのカテゴリが確認された。この結果を基に実験刺激を作成した。実験ではキャラ、友人の人数、背景を組み合わせた刺激を使用して印象の評定を行った後、MAPSを援用した 実験を行った。実験の結果、すべての条件でキャラによる印象に差が見られ、講堂条件では友人が多いほど陰キャらしさが減ることが確認された。このためキャラの評定には性格、外見などの要素があり、その要素によってキャラクターが 確定した後の結果として、友人の人数に差が生まれると考えられた。投影法の結果、アイデンティティの変化により、他者に対するステレオタイプ化が減少し自分らしく活動するようになることが示唆された。また、画像配置と、 人物のアイデンティティが関連している可能性が示唆された。


内受容感覚への意味づけと関わり方の不安に対する影響

指導教員: 国里

要旨を読む

内受容感覚には測定方法によって測っている側面が異なることが挙げられており、実験課題で測られる内受容感覚の精度と質問紙で測られる主観的な内受容感覚に区別されている。 感情関連疾患と内受容感覚の関連が研究されるなかで、不安については、精度よりも主観的な内受容感覚が影響している可能性が挙げられている。さらにそこへネガティブな意味付けをし、 主観的不安や不安時の身体の感覚を恐れる不安感受性Reiss, Peterson, Gursky& McNally(1986)が不安に影響を与えている可能性を考えた。そのため、本研究では、 主観的内受容感覚とそれに対する意味付けと不安に関する関係について検討し、主観的内受容感覚が不安に影響を与える関係がある中で、その間に内受容感覚への意味付けである不安感受性がより不安に影響を及ぼす可能性を考えた。

研究1ではこれらの関係についてMASEMを用いたメタ分析を行った。論文の抽出に際には、主観的内受容感覚をはかるBPQ-BAが開発された年を規準に検索を行い、 感情関連疾患を抱えた患者群にむけて調査を行った論文や実験課題で測った先行研究は除いた。その結果、事前設定したモデルの推定値を得ることができた。このことから、 主観的内受容感覚に身体感覚への恐怖を示す不安感受性が意味付けとなることで、不安に強く影響を及ぼす可能性があることが示唆された。

研究Ⅱでは、3つの変数について質問紙調査を行い、関係の検討を行った。また、Shoji, Mehling, Hautzinger,& Herbert (2018)の研究ではMAIAの4因子「気が散らない」 注意制御」「身体を聴く」「信頼する」と不安に負の相関が見られた。そのため、介入方法として「気が散らない」「注意制御」「身体を聴く」「信頼する」 それぞれとの関係の検討のため、受容感覚を独立変数、不安を目的変数、不安感受性、「気が散らない」「注意制御」「身体を聴く」「信頼する」を媒介変数とした媒介分析を行った。 その結果、まず不安感受性について、間接効果が見られなかったが、各効果が有意傾向にあったため、サンプルサイズを増加した場合には、不安感受性の間接効果が得られる可能性があった。 具体的には主観的内受容感覚が強いほど正の影響をうけることでネガティブな意味付けが強まり、不安感受性が強まることでさらに不安が強くなると考えらえる。さらに、MAIAの4因子それぞれを媒介変数とした結果、 4因子とも間接効果が見られなかったが、「注意制御」「信頼する」については、不安に対して負の効果が見られた。「注意制御」内受容感覚に注意を向けつつも、ネガティブな意味付けや認知とは切り離して感じることができたり、 感覚の中でも不快感を感じる一部の感覚にとらわれずに別の感覚に意識を向けることが出来る能力である。「信頼する」は自分の身体や内受容感覚が安全で信頼に値し、ネガティブな認識なくそのままに受け止められる経験である。 Hölzel et al.,(2001)やMehling et al.,(2012)は、これらがマインドフルネスと近い態度であると述べた。山本・中井(2019)は、慢性疼痛患者の内受容感覚に着目し、身体を活用するマインドフルネスを実施した事例について取り上げ、 マインドフルネスの効果の過程について考察している。痛みに注意をむけつつも、呼吸を観察するなど身体全体の感覚に意識を向けるようにすることで注意制御力が高まっていた。不快な感覚以外の内受容感覚に注意を向け、 さらにありのままに受け取ることで、破局的な認知が減少し、痛みを感じつつもそこに捉われることが減少していた。

これらのことから、不安に対する介入方法として、マインドフルネスのように注意制御を行うことを考えた。そうすることで、不安の内受容感覚に対して注意制御をおこない、感覚と距離をとることができ、 感覚をありのままに受容し破局的な意味付けを緩和することで、不安の低減につながる可能性を考えた。


性格表現のための感覚形容語

指導教員: 高田

要旨を読む

ビッグファイブ5因子はどのように表せるのかについて、感覚モダリティ間で比較することを目的とした、質問紙調査を実施した。予備調査では楠見(1988)で用いられていた感覚形容語を含む87語によって表現された 「人」がどの程度好ましいと思うかを尋ねた。人の性格についての回答を求められなかった可能性が含まれた調査ではあったが、87個の表現には、特に好ましいと評定されやすい表現と好ましくないと評定されやすい表現が 含まれていることが示唆された。

本調査では、ビッグファイブの5因子のそれぞれの特性について書かれた人物が、どの感覚形容語で表現できるかを調査した。その結果、一つの感覚モダリティの感覚形容語で、 それぞれ異なる一つないし二つの性格特性を説明する可能性が示唆された。ただし、性格特性のうち、情緒不安定性は、感覚形容語で表現することが難しい可能性が考えられる。 情緒不安定性以外の4つの性格特性で、説明されやすい感覚モダリティがある可能性を考えることができた。嗅覚の感覚形容語を用いた表現は、他の感覚モダリティの感覚形容語を用いた表現よりも、 人物の説明として選ばれることが少なかった。楠見(1988)でも嗅覚の感覚形容語を「性格」を表した表現の理解可能性が、他の感覚モダリティの感覚形容語よりも低かった。したがって、 嗅覚の感覚形容語は人の性格を説明する際にあまり使われない可能性が考えられる。

本研究では、感覚形容語を用いて性格を表現することに向けて、感覚モダリティごとに説明できる性格特性が異なっている可能性が示唆された。 今後の研究では、どの程度感覚形容語を用いた表現で性格特性を表現できるのかを検討していくことで、実際に目の前の人物の性格を感覚形容語で説明することへ近づいていくことができるのではないかと考える。


概日リズム障害に関する基礎的研究

指導教員: 岡村

要旨を読む

地球環境は24時間の間に周期的に変動しており、生物は概日リズムという機構を用いてその周期的な変動に効率的に適応している。概日リズムには入力・振動・出力の3つの機構が存在し、振動機構が生成する生物個体独自のリズムを、 入力機構から得られた環境変化の周期に同調させる形で制御し、さらに出力機構を介して種々の生理現象へと反映させる。概日リズムの入力機構が参照する最も強力な同調因子は光であり、従来概日リズムは日照を中心とした 地球環境の変化によって同調されてきたが、近年の照明の発達や生活様式の変化により、概日リズムの障害が問題視されるようになってきた。 光を用いた概日リズムの同調に大きく関与しているのが、光受容器と呼ばれる器官であり、哺乳類では錐体細胞・桿体細胞・メラノプシン網膜神経節細胞の3種類が知られている。それぞれ桿体細胞が夜間から夜明けにかけての暗い時間帯、 メラノプシン網膜神経節細胞が桿体細胞の飽和する昼間の時間帯を中心的に制御し、錐体細胞は昼間の急激な照度上昇を元にその情報を修飾する役割を担っていると考えられている。 ところが、メラノプシン網膜神経節細胞は発見されてまだ日が浅く、概日リズムを始めとするその機能的研究の知見は少ないのが現状である。また、メラノプシン網膜神経節細胞の研究は遺伝子改変動物を用いた検討が多く、 機能代償の可能性があることから野生型の動物においても同様かどうかは疑問が残る。そこで、野生型のマウスにおいて、桿体細胞が飽和する照度で、かつ錐体細胞の影響を除外した照明の条件下でも、概日リズムの光同調が行われるかどうかを 検討することを目的とした。

  1. 方法 野生型(C57BL6J)のマウス3体を被験体とし、桿体細胞が飽和する高光量の背景光(波長525 nm、光量10.51012 photons/cm2/s)に24時間暴露する環境で飼育(L/L条件)した。1週間の順応期間ののち、 2日間かつ1時間ごとに5分間L/L条件におけるマウスの活動を映像記録した。その後、背景光を提示したまま、マウスのメラノプシン網膜神経節細胞のみを選択的に反応させると考えられるさらに高光量の刺激光(波長525nm、 光量63.31012 photons/cm2/s)をPM9:00 ~ AM9:00の時間帯に暴露する環境で飼育(L/L+条件)し、同様に移行後7日間の記録を実施した。なお、マウスの映像記録は、DeepLabCutによる部位検出とフレーム毎に検出された部位の 場所の座標を用いた行動解析を行った。フレームごとにマウスの部位(鼻・右耳・左耳・尻尾の付け根)がどれだけ移動したかを算出し、その累積を活動量とした。 光以外の環境因子を排除するため、実験室は光密封を行い、温度や湿度、環境音の条件を統一した。また、被験体は生理周期による影響を除外するため全てオスの個体を用い、実験中摂食や飲水は自由に行えるものとした。

    3. 結果と考察 被験体の活動量の傾向を比較すると、恒常条件であるL/L条件では自由継続周期由来らしい活動量の増減の波を生じた個体も確認できた。一方、L/L+条件では、主観的夜となる刺激光を提示していない時間帯にマウスの活動量が 相対的に多くなったが、まとまった形での増減ではなく、不規則な変化となった。 これらのことから、今回の条件下では、マウスの概日リズムは追加で暴露した刺激光によって影響を受けているものの、完全には光同調が生じなかったといえる。今回用いた刺激では、桿体細胞と錐体細胞から概日リズムへの影響が 生じないと考えられるため、野生型のマウスの概日リズムの光同調にとって、3種類の光受容器が互いに情報を補完し合うことが重要である可能性がある。また、概日リズムの位相後退は1週間程度で終結するが、位相を前進させる場合は 2週間程度を要することが知られており、今回の計測期間が1週間だったことから、マウスの光同調が終結しなかった可能性がある。 今回の検討では、概日リズムの光同調を観測することは難しかったが、今後概日リズムの入力機構や光同調に関する知見が蓄積されれば、より選択的に概日リズムの障害に対してアプローチが可能な光療法を開発することも可能になると考えられる。 なお、本研究ではマウスの行動解析にDeepLabCutを使用したが、練度不足や実験装置との干渉により、探索活動等のマウスの活動を正確に拾い切れず、量的な指標に反映させることができなかった。また、使用機材の制限により撮影期間や撮影時間が短く、 統計検定を実施するに至るだけのサンプル数を揃えることができなかった。今後の展望として、使用する実験装置の再考、また、撮影期間や被験体の個体数を増やしてサンプルデータを多く収集することを提案したい。


理想自己と現実自己の差異と自己受容の関連 ―自己受容の評価的側面・感覚的側面に注目して―

指導教員: 吉田

要旨を読む

自分自身として受け入れ好きになることとされており、他者の目から見た自分に対する評価的側面と、自己に対する好きという感情である感覚的側面の両面からとらえられている (伊藤, 1991)。 また、理想自己とは個人がそうありたいともっとも価値を置いている自己概念とされている (Rogers, 1951)。現実自己は、今ここにある自分のことである (Markus & Nurius, 1986)。Rogers (1957) をはじめとした研究では、 理想自己と現実自己の差異が大きいほど自己受容が低く、理想自己と現実自己の差異が小さいほど自己受容が高いという結果が多い。

方法としては、大学生及び大学院生81名にオンライン調査を行い、分析対象とした。調査内容は、理想自己と現実自己の測定のために、「自己認知の諸側面尺度」(山本・松井・山成, 1982)を用いた。 また、自己受容の評価的側面と感覚的側面を測定するために、「自己受容尺度(評価次元・感覚次元)」(伊藤, 1991)を用いた。

結果とその考察としては、以下のようになった。理想自己と自己受容の評価的側面と感覚的側面との間の関連について検討した結果、有意な関連は見られなかった。 一方、理想自己と自己受容との関連についてより詳しく検討するために、理想自己と自己受容の評価的側面と感覚的側面の各因子との相関分析の結果では、理想自己が高い人ほど、 社交性や趣味や特技に関する場面において、評価的側面と感覚的側面の両方が高いという、正の関連が見られた。

また、現実自己と自己受容の評価的側面と感覚的側面との間の関連や影響についても検討した。その結果、現実自己と自己受容の評価的側面と感覚的側面との間に正の関連が見られたと同時に、 現実自己の自己受容の評価的側面と感覚的側面に対する影響が見られた。また、現実自己と自己受容の関連についてより詳しく検討するために、現実自己と自己受容の因子ごとに相関分析を行った。 その結果、現実自己と自己受容のほとんど全ての因子との間に正の関連が見られた。考察では、現実自己が高い人ほど、自己受容の評価的側面と感覚的側面の両方が高いことがわかり、現実自己を高いと感じられることそのものが、 自己受容の高さに関連していたと考えた。

理想自己と現実自己の差異と、自己受容の評価的側面と感覚的側面との間の関連について検討したところ、負の関連が見られたが、現実自己の影響を取り除いた偏相関分析の結果ではその関連が見られなくなった。 また、理想自己と現実自己の差異が自己受容に及ぼす影響について検討した結果、自己受容の評価的側面と感覚的側面に対する影響は見られなかった。理想自己と現実自己の差異と自己受容との関連についてより詳しく検討するために、 理想自己と現実自己の差異と自己受容の因子ごとに相関分析を行った。その結果、理想自己と現実自己の差異が小さい人ほど、学校や容姿を気にかける場面、学校での場面において、 評価的側面と感覚的側面の両方が高いという負の関連が見られた。考察では、理想自己と現実自己の差異が大きいほど自己受容が低く、理想自己と現実自己の差異が小さいほど自己受容が高いという 従来の研究結果と一致しなかったことについて、本研究の測定方法が従来の研究と異なっていたことによって生じたと考えた。

以上より、理想自己、現実自己、理想自己と現実自己の差異と自己受容の関連について検討すると、現実自己が最も自己受容の評価的側面と感覚的側面に関連していたことがわかった。


児童青年期における怒りに対する認知行動療法の効果研究 ―メタ分析による検討―

指導教員: 吉田

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怒りに対する認知行動療法の有効性が確認されているが, 怒りには, 怒りの制御・攻撃行動・怒りの表出・怒りの抑制のように複数の側面が存在し, それらの側面ごとに認知行動療法の介入効果を示している研究は少ない。 さらに, 認知行動療法にはインストラクション, ディスカッションなどの技法が複数存在し, これらの技法が与える効果について検討している研究も少ない。

本研究は, 児童青年期における怒りへの対処法として用いられる認知行動療法の全般的な効果を明らかにすることと,怒りの側面を細分化し、どの側面に対してどの介入方法が効果を与えるのか, そして用いられた技法の有効性を評価することを目的とし, 9件の論文を用いてメタ分析を行った。各論文について, 治療タイプ(0=能力開発, 1=情動教育, 2=問題解決訓練, 3=折衷的治療), 怒りの側面(0=怒りの制御, 1=攻撃行動, 2=怒りの表出, 3=怒りの抑制)のように, 参加者の特徴, 研究デザインの特徴, 治療法の特徴, セラピストの経験, 測定法の特徴の各カテゴリーをコード化した。

その結果, 全体の効果量は0.22で, 怒りを低減するための認知行動療法の介入効果は小程度であることが確認された。怒りの側面に対する介入効果については, 怒りの側面全体は情動教育と, 攻撃行動は情動教育と, 怒りの表出は能力開発・折衷的治療との間に関連が確認された。介入内で用いられた技法では, インストラクション, ロールプレイング, 感情識別の量が増えるほど, そしてリラクゼーションの量が減るほど治療効果が高まることが確認された。

怒りの側面全体に対して情動教育が関連していたことについて, 感情に焦点を当て, 内面で起きていることを見つめ直す介入が, 怒りが生じることに繋がった根本的な原因に対して効果を発揮したことで怒りの 低減につながった可能性が考えられた。怒りの表出に対して能力開発と折衷的治療の介入が関連していたことについて,実際の行動を教えることでスキルの獲得を目指す能力開発や折衷的治療が, 目標とする行動に関連する認知や感情のような, 内部にある要素を修正しようとする情動教育や問題解決訓練よりも効果的であるとした先行研究を踏まえ, 本研究においても怒りの表出には, 他の介入と比較して, 能力開発と折衷的治療は実際の行動を教えるため, より実践的な効果を持っていた可能性が考えられた。

このことから, 怒りを表出するに至った具体的な理由が判明している場合には, 能力開発や折衷的治療のようなスキルの獲得を目指す介入が有効である一方で, 多くの場合, 怒りという感情は不明瞭であるため, 情動教育のような本人の認知を修正しようとする介入が有効である可能性が考えられた。各技法に関しては, 技法単体の影響だけでなく, 複数の技法を組み合わせて実施したことによる影響や, 怒りと技法の間に別の媒介変数が存在する可能性が考えられた。


ストレス状況下において社会的比較が精神的な健康状態の自己評価及びその後のストレス対処に与える影響

指導教員: 加藤

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職場におけるメンタルヘルスケアについての研究は数多く行われており,職場におけるメンタルヘルス問題改善の必要性がされてきているが,現状として職業性ストレスを感じている労働者は多数おり, 職場のメンタルヘルスには課題が残っている。 ストレスが高まると,うつ病などの疾病につながり,自殺のリスクが高まることもあるため,ストレスに早期に気づき対処することで,深刻化を防ぐことが重要となる。自分でストレスに気づき対処することに関して,高 田(1998)は,自己への脅威に直面する事態(ストレス状況下)では社会的比較が働きやすいと述べている。健康に問題があるというストレス状況下で生じる社会的比較には,自分自身を実際より肯定的に捉えるという楽観的な自己認識の機能が目立つ。 つまり,ストレス状況下においては,社会的比較が作用することで,健康状態の正確な自己評価が行われにくいと考えられる。さらに, Croyle (1992)は, 身体的な病気の状態というストレスの脅威に対処する過程で, 社会的比較は対処にも作用すると述べている。

2.目的

以上のことより本研究では,病気の状態というストレス状況下のみならず,広く自己への脅威に直面した状態(ストレス状況下)で生じる社会的比較が精神的な健康状態の自己認識(自己評価)に与える影響, また,その後のストレス対処に与える影響について明らかにすることを目的とする。

3.方法

本調査では,社会人(125名)を対象に,社会的比較志向性と現在のストレスに関する質問紙調査を行い,回答に欠損のない社会人(123名)の回答を分析に用いた。

4.結果 社会的比較と現在のストレス値との間には相関関係は見られなかった(r=-.05 (n.s.))。現在のストレス値と相関があったのは,職種(η2=.25(n.s.))であった。 次に,現在のストレス値を従属変数,社会的比較志向性尺度の合計得点,残業時間,職業性ストレス簡易調査票Aストレスの原因と考えられる因子の評価点の合計得点,同僚の仕事量の評価点の合計得点,年齢を独立変数としたうえで, 性別ダミー(女性0,男性1), 職種ダミー(人と関わる機会が少ない職種0,人と関わる機会が多い職種1)を投入し,重回帰分析を行った。重回帰分析の結果, 社会的比較は現在のストレス値にほとんど影響を及ぼさないことが明らかとなった (β=-.061(n.s.))。また,重回帰分析のモデルの説明力は低いことが明らかとなった(R2=.051)。モデルの説明力は低かった中で,同僚の仕事量の評価点の合計得点については,10%水準でβ値が有意であった。 社会的比較がその後のストレス対処方略に与える影響について,社会的比較志向性尺度の合計得点と現在のストレス対処方略の間には相関は見られなかった(η2=.096 (n.s.))。ロジスティクス回帰分析の結果, 影響力は弱いが有意であった(オッズ比は1.19(p<.05))。

5.考察

社会的比較と精神的な健康状態の自己認識(自己評価)には相関関係・因果関係がみられないという結果となった原因について,①社会的比較志向性を正確に測定できていなかった可能性,②現在のストレス値を正確に測定できていなかった可能性, ③集団主義から個人主義への変化という時代的背景や働き方改革などの労働環境の変化が影響している可能性があるのではないかと考える。 社会的比較がその後のストレス対処方略に与える影響について,相関関係はみられなかったが,社会的比較が現在のストレス対処方略に与える影響力は弱いが有意であるという結果について, ①問題解決型のストレス対処方略を選択する参加者が多く,ストレス・マネジメント研修や自身の経験,知識に基づいて,ストレス対処方略を選択している可能性,②検定力が低かった可能性があるのではないかと考える。 また,重回帰分析の結果,想定したモデルは支持されなかった。モデルが支持されなかった原因について,現在のストレス値を正しく測定できていなかった可能性があること,モデル自体の適合度が低かったことが影響を与えているのではないかと考える。 今後は,ストレス値の測定について,自己評価,自己申告に基づくもので回答を求めたため,客観性に欠ける。主観的なストレス値の測定方法について吟味する必要がある。 また,本研究では,重回帰分析のモデルの説明力は低かった。モデルの作成にあたり,ストレス値に影響を与えると考えられる個人要因,環境要因,心理的要因について吟味する必要があると考える。


加害者・被害者から見た対人葛藤の捉え方と共感性について

指導教員: 塚本

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個人が他者と衝突した出来事をどのように受け止めるかは,加害者または被害者としての役割の影響を受ける(Baumeister et al., 1990; Gonzales et al., 1992)。例えばBaumeister et al. (1990)によれば, 加害者は自分の行為を正当なもの、あるいはやむを得ないものと見なし,出来事について被害を最小化して説明する。その一方で被害者は,加害者の行為を理解できないもの,不当なものとして捉え, 出来事について被害を最大化して説明する。Zechmeister and Romero(2002)は,他者と衝突した出来事について加害者と被害者のそれぞれの視点から研究参加者が語った内容を分析しているが,その際,許しの要因の影響についても検討している。 その結果,相手を許した状況の被害者はより他者へ焦点を当てており,相手を許さない状況の被害者は自分へ焦点を当てていた。

本研究では,他者と衝突した出来事の捉え方に役割や共感性,許しの役割が及ぼす影響について,先行研究で明らかになった知見の拡張を目指す。 Baumeister et al. (1990)とZechmeister and Romero(2002)の研究では,出来事を自由記述させたため,加害者・被害者の捉え方の違いが同じような出来事に対する解釈の違いによるものなのか, それとも異なる出来事を選んで記述したことによるものなのかを明らかにすることができなかった。そこで,本研究では研究者によって予め作成されたエピソードを用いて,被害者・加害者という立場の違いや共感性, そして許しの役割が他者と衝突した出来事の捉え方に及ぼす影響について検証する。

【方法】 参加者:大学生・大学院生113名

手続き:参加者はすべての課題を Google フォーム にて取り組んだ。参加者には,初めに加害者エピソードと被害者エピソードを用いた課題に取り組むよう求め, 次に日本語版対人反応性指標への回答を求めた。①加害者の立場からのエピソード評価:調査開始前に,各物語に登場する被害を与えた人物が参加者であることと, 自分(参加者) が相手に被害を与えた理由をできるだけたくさん答えるように教示した。次に,参加者は1つのエピソードに対し1つの出来事の評価(「故意」「過失」「偶然」) を入力後,自分(加害者)が被害を与えるに至った理由を自由記述欄に入力した。最後に,自分(加害者)を許すかどうかを回答した。②被害者の立場からのエピソード評価:調査開始前に, 各物語に登場する被害を受けた人物が参加者であることと,相手が自分(参加者)に被害を与えてきた理由をできるだけたくさん答えるように教示した。次に,参加者は1つのエピソードに対し1つの出来事の評価 (「故意」「過失」「偶然」)を入力後,その相手(加害者)が被害を与えるに至った理由を自由記述欄に入力した。最後に,相手(加害者)を許すかどうかを回答した。

【結果・考察】 本研究では,研究者によって予め作成された対人葛藤場面のエピソードを用いて出来事の捉え方を調べたところ,チラシのエピソードに関しては先行研究と同様,加害者・被害者という それぞれの立場から正当性を主張する回答が見られたが,レポートのエピソードでは同様の結果が得られなかった。エピソード間で異なる結果が得られたことから,加害者・被害者の役割とは異なる要因の影響が示唆された。 チラシのエピソードでは,加害者は許せる,つまり相手が納得できるような理由を答えることで自分の行動の正当性を主張し,被害者は許せない・納得できない理由を挙げることで被害者としての自分の立場を主張している可能性がある。 レポートのエピソードでは,出来事に対する納得できる理由も限られてしまうため,許せるか否かにも,役割にも回答の違いが現れなかったのではないかと考えられる。

今後の課題としては3つある。1つは,今回対人葛藤場面が生じた経緯について故意・過失・偶然から選択させたが,回答の特徴を見ていくと,参加者が故意と過失という言葉を混同していた可能性が考えられた。 このことから,予め故意・過失・偶然とはどのような意味なのか言葉を定義した説明文を加えるべきだったと考える。また,2つ目として,本研究の参加者は総じて共感性が高かったため, 共感性の影響を正確に見ることが出来なかった。データの収集が心理学科に偏っていたことも一つの原因であろう。今後は幅広い学生にデータを取るべきだと考える。3つ目は,エピソードによる結果の違いが見られたため, 今後はより加害者の意図が明確なのか不明確なのかなど内容を吟味して使用するべきと考えた。


身体感覚レベルの評価を含めたトランスアクション・モデルの検討

指導教員: 加藤

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この概念を用いて多くのストレス研究が行われ,個人がどのようなコーピングを行うかは,個人の特性より,ストレス状況の性質や認知的評価の在り方に影響を受けることが示唆されてきた。トランスアクション・モデルでは, 「認知的評価」はストレッサーにより直接起こるとされるが,実際には本人がストレッサーを「ストレスフルだ」と「認知的評価」しなくても,「心理的ストレス反応」が生じることがある。

Lazarus(1999)は「認知的評価」について,意識されていない直感的・自動的な脅威の評価が含まれる可能性も示唆しているが,これに関する研究はない。意識されていない直感的・自動的な脅威の評価は, 感情や思考として概念化される前段階の「前言語的な評価」と考えられ,体験過程理論(Gendlin,1966),ソマティック・マーカー仮説(Damasio,2003)を応用すると,前言語的な評価は「内受容感覚」(身体感覚レベルの評価)として 位置づけられると考える。

内受容感覚の測定方法の一つとして,オノマトペが注目されている。オノマトペは,五感を通した体験や,気分や感情などを表現できる言語である(苧阪,2001矢口,2011)。 内受容感覚は,五感と同様の感覚レベルの体験もあり,気分,感情の前段階の感覚でもあるため,オノマトペを使用することで,内受容感覚が測定できると考える。

以上を踏まえて本調査では,トランスアクション・モデルにおける「認知的評価」の前段階に身体感覚レベルの評価,すなわち内受容感覚を知覚する段階を組み込み,内受容感覚が「認知的評価」 「コーピング」「心理的ストレス反応」に与える影響を検討することを目的とした。

予備調査では,内受容感覚を表すオノマトペ20語を選出した。本調査では,調査参加者が体験したストレッサーについて,自由記述で回答を求め,ストレッサーによって生じた内受容感覚を測定するために, 予備調査で選出した20語のオノマトペを提示した。その後「認知的評価」と「コーピング」,「心理的ストレス反応」をそれぞれCARS,TAC-24,SRS-18を用いて測定した。分析対象者は,128名(男性60名,女性59名,無回答9名), 平均年齢は19.75(SD = 1.61)歳であった。 始めに,内受容感覚を表すオノマトペ20語の探索的因子分析をしたところ,3因子が抽出された。それぞれの因子は,「心に響くような感覚」「震えあがるような感覚」「張り詰めたような感覚」と命名された。次に,各尺度の信頼性を検討した。

その結果,CARSの下位尺度であるコミットメントを除く,全ての下位尺度に高いα係数とω係数が示された。 次に,共分散構造分析によるパス解析によって,内受容感覚をトランスアクション・モデルに組み込んだ2つのモデルを検証した。2つのモデルとは,内受容感覚が「認知的評価」を生起させ,「コーピング」に影響を与えることを 仮定した直列モデルと,内受容感覚が「認知的評価」が組み合わさって「コーピング」に影響を与えることを仮定した並列モデルである。モデルの適合度の指標には, GFI, AGFI,RMSEAを,モデルの相対的評価の指標には,AIC,BICを用いた。

2つのモデルを検証したところ,並列モデルに高い適合度がみられた。このことから,ストレッサーによって生じた,心に響くような感覚,震えあがるような感覚,張り詰めたような感覚といった「内受容感覚」は, 脅威性,影響性,コントロール可能性,コミットメントといった「認知的評価」と組み合わさることで,「コーピング」に影響を与えるといえる。また,並列モデルでは,「内受容感覚」と「認知的評価」「コーピング」によって, 「心理的ストレス反応」のおよそ40%以上が予測された。さらに,ストレッサーによって生じた「内受容感覚」の種類よって,後続のストレス対処過程に異なる影響を与えることが示された。具体的には,心に響くような感覚と, 震えあがるような感覚を感じた時には,問題回避によるコーピングを行わない傾向が見られ,張り詰めたような感覚を感じた時には,肯定的解釈と気逸らしによるコーピングを行う傾向が見られた。 本研究の結果をまとめると,気分や感情として概念化される前の内受容感覚が,後続のストレス対処過程に影響を与えるといえる。中でも,「じん」とくる,「がくがく」するといった心に響くような感覚,震えあがるような感覚に目を向け, 問題回避をせずにその感覚を鎮めるためのコーピングを検討することが,「心理的ストレス反応」の低減に効果的な可能性が示唆された。この可能性をより詳細に検討するためには,「認知的評価」を多面的に測定する必要や, ストレッサーの内容を詳細に検討する必要があると考えられる。


博士論文(1件)

恐怖条件づけの獲得・消去にメタ認知が与える影響

指導教員: 国里

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命題アプローチにおける主要な仮定として,(1)生体はCS-US随伴関係を観測することにより,CS-US随伴関係についての命題を獲得し,それを評価することによってCRを表出していること, (2)学習とは,生体が環境に対して積極的な推論を行った結果であること,の2つが挙げられる。すなわち,恐怖条件づけ事態では,参加者はCS-US随伴関係に曝されることにより,どのCSがUSと随伴するかについての命題を獲得し, その知識を評価する。そして,真であると評価された命題に基づき,CRを表出する。そして,命題獲得と評価のプロセスは,生体による積極的な推論によるものであるとするのが命題アプローチである。 本研究では,この2つの仮定を踏まえ,恐怖条件づけにおける学習プロセスにメタ認知能力が関連すると考えた。 メタ認知とは,自らの認知過程を正確に評価する機能である。メタ認知はメタ認知課題によって測定される。例えば, Koriat & Goldsmith(1996)は,(a)一般常識問題への回答,(b)直前の回答に対する確信度評定,の2つのフェーズで構成されるメタ認知課題を開発した。ここで,(a)におけるパフォーマンスと(b)における確信度評定が強く相関するほど,参加者は自らの認知過程をより正確に評価できている,すなわちメタ認知が正確であると定義される。本研究では,メタ認知が正確に機能している程度,すなわちメタ認知の高さを指してメタ認知能力と表現した。 本研究では,メタ認知能力が高い参加者ほど,恐怖条件づけの学習速度は速くなると予測された。恐怖条件づけの学習プロセスを生体が環境に対して積極的な推論を行う過程と考えた場合, 恐怖条件づけ事態はある種の認知課題であると捉えることができる。その場合,メタ認知能力が高い参加者ほど,恐怖条件づけ事態における認知的判断,すなわち命題の生成は正確に評価されると考えられる。 すなわち,メタ認知能力の高い参加者は環境に即した正しい命題をより真であると評価する。その結果として,獲得された命題は真のCS-US随伴関係へと更新されやすく,速い学習に繋がると考えられる。 本研究では以上の仮説を検討するため,5つの研究課題を遂行した。まず研究1では,恐怖条件づけの手続きについてナラティブ・レビューを行った。 本研究で用いる情動喚起刺激を用いた恐怖条件づけは,参加者に対する物理的な侵襲性のない,比較的安全な手法である。その一方,恐怖条件づけのUSとして一般に用いられる電気ショックと比較して研究の数が少なく, どのような手続きが用いられるのか,その長所短所はなにか,といった事項について整理されていない。そこで研究1では,オリジナルのLau etal.(2008)を引用している文献をレビューし,情動喚起刺激を用いた恐怖条件づけ手続きについて整理した。 その結果,CRとしてUS予期や皮膚コンダクタンス反応,筋電位を測定する場合に最適な刺激の呈示時間や実験構成についてある程度示唆が得られた。その一方,先行研究で報告されている効果量は恐怖条件づけの成立を頑健に確認できるものではなく, 本邦における成功例もないことが明らかになった。そこで,本研究で恐怖条件づけを実施する前には,研究1で得られた実験パラメータを元に予備実験を行い,本邦における最適な実験パラメータについて検討する必要性が示唆された。 研究2では,メタ認知能力を測定する指標について整理を行った。メタ認知能力の有力な指標の1つとしてKoren et al.(2006)が提案する6つの指標が考えられた。しかし, この指標は6つの指標間の差異について十分な議論がなされておらず,どの指標をどのように解釈すべきかについて定まった結論が得られていない。そこで,Manisalco & Lau(2012)によるメタ認知指標の絶対性・相対性の議論を踏まえ, Koren et al(.2006)による6つの指標がそれぞれメタ認知のいずれの側面を反映するものであるかを検討した。その結果,Koren et al.(2006)の6つの指標のうち,包括的モニタリングのみが認知課題と相関しない指標であることが明らかになった。 包括的モニタリングは,Manisalco & Lau(2012)の枠組において相対的感度に相当し,メタ認知能力のみを反映する指標であることが示唆された。また,包括的モニタリングは異なる認知課題間でも相関し,収束的妥当性を満たす指標であることが明らかになった。 研究3と研究4では,新たなメタ認知モデルの提案と妥当性の検討を行った。研究2において,有力なメタ認知指標が明らかになったものの,Koren et al.(2006)が提案するメタ認知指標には,根本的な問題があった。 それは,既存のメタ認知指標にはメタ認知能力と行動データを紐づけるモデルが存在しないことである。そこで,まず研究3において,メタ認知能力がどのように認知課題における反応と確信度の生成に関わっているのかを数理モデルとして表現した。 そして,モデル内のパラメータとしてメタ認知能力を位置づけ,データからパラメータを推定することによってメタ認知能力を推定した。その結果,新たなメタ認知モデルに基づいて推定されたパラメータは正答率と相関せず,認知課題間では 正の相関を示すことが明らかになった。すなわち,新たなメタ認知指標は相対的感度を表す指標として,弁別的妥当性および収束的妥当性を満たす指標であることが示された。 研究4では,研究3の結果についての概念的追試を行った。近年,心理学研究の再現性について疑問の声が呈されている。本研究も例外ではなく,研究3で示された結果が限られた参加者,限られた認知課題において限局的に生じるものである可能性は否定できない。 そこで,研究3とは異なる認知課題を用いて再び実験を行い,研究3で明らかになったメタ認知指標の弁別的・収束的妥当性を検討した。その結果,弁別的妥当性については研究3と同様の結果が再現され,相対的感度として弁別的妥当性を満たす 指標であることが明らかになった。 最後に研究5では,恐怖条件づけにおける学習プロセスにメタ認知能力が与える影響を検討した。その結果,メタ認知能力は獲得フェーズにおけるCS+に対して負の効果を示し,それ以外のフェーズおよび刺激に対しては十分な効果を示さなかった。 すなわち,メタ認知能力が高い参加者ほど,獲得フェーズにおけるCS+への学習が遅くなることが明らかになった。これは,本研究における仮説とは真逆の結果である。この点について,本研究では2つの仮説について議論を行った。 1つは,メタ認知能力の高さは,慎重かつ正確な学習に寄与している可能性である。獲得フェーズのCS+におけるUS予期に対するメタ認知能力の係数は負であったものの,獲得フェーズ終了時点において,メタ認知能力高群が示した US予期評定は,研究5における真の随伴関係である4であった。すなわち,メタ認知能力が高い参加者は低い参加者と比較して緩やかな学習ではあったものの,むしろ正確だったことが示された。 一方,2つ目の仮説として,研究5における恐怖条件づけ手続きは本研究における仮説を検証するのに妥当ではなかった可能性も示唆された。研究5では恐怖条件づけの獲得が示されたのは主観的評定であるUS予期のみであり, 生理指標では示されなかった。このことから,研究5における恐怖条件づけにおいて,参加者はCSに対する恐怖反応を獲得したのではなく,単純な随伴性判断課題を行なっていただけ,という可能性がある。その場合, 参加者の反応は十分にばらつかず,メタ認知能力の高さによる差異を検出することができなかったかもしれない。この点については,生理指標でもCRが観測できるような恐怖条件づけ手続きの確立が求められるとともに, 参加者にとってより難解な課題にすることで,メタ認知能力の高さによる差異を検出できるようにする必要がある。 5つの研究課題を遂行したことにより,本研究ではメタ認知研究として,また恐怖条件づけ研究として,それぞれ重要な示唆を得るに至ったと考えられる。まず,メタ認知研究としては, 解釈性や汎用性の優れた新たなメタ認知モデルとして精度に基づくメタ認知モデルを提案し,その妥当性を示すに至った。この結果は,今後のメタ認知研究を蓄積していく上での基礎固めになったと考えられる。 他方,恐怖条件づけ研究として,本研究では仮説を証明するには至らなかった。しかし,再現性という観点から既存の恐怖条件づけ研究における問題点の明確化と,解決すべき課題について示唆を得ることができたと考えられる。 どのような刺激をどのような手続きで用いることで恐怖条件づけを成立させられるかについて,十分な精査が必要となる。その上で,本研究で行われたような,単純な分化条件づけ手続きでは参加者間の分散が小さくなる可能性が示唆された。 このことは,恐怖条件づけに寄与する他の心理的変数の影響を十分に検討できない事態を生じさせてしまう懸念がある。この問題については汎化勾配を用いたCSの複雑化を行うことが解決につながる可能性が示唆された。