令和2年度(2020年度) 論文題目

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卒業論文(62件)

論文題目 指導教員
ゲーム課題への没頭を高める要因の検討
SNSの利用動機と承認欲求、及び自己開示動機に関する研究 吉田
自己へのポジティブなフォーカシングが志向性および動機づけに及ぼす効果 下斗米
甘い香りが向社会性・恋愛意欲・架空のパートナー評価に影響を及ぼすのか? 小杉
視線は特別なのか?空間ストループ課題による検討 大久保
L-AP4がカエルの網膜神経節細胞受容野に与える影響 -逆相関法による測定- 石金
ベトナム人犯罪の急増を規定する要因 越智
自伝的記憶の想起による自己肯定感の変化 岡村
恋愛ソングの計量的分析 ~若者は失恋ソングを聴かなくなったか~ 越智
LINEの既読を気にしやすい人の特徴とは 松嶋
大学生における仮想的有能感とインターネット等での攻撃行動の関連の検討(利用するSNSとその頻度をふまえて) 松嶋
乳児の泣き声の認知に与える認知的負荷・制御困難性の影響 池田
音楽聴取における感動体験 高田
大学生のスポーツ活動によるストレス反応の差異と普段の生活や自身への影響の関連 長田
大学生によるロボットのイメージと背景要因 高田
心理学的ネットワーク解析を用いた内受容感覚及び不安や抑うつとの関係の検討 国里
人間はコミュニティの中で自己をどのように作り出しているのか -多層的対人関係による総体としての自己生成・変容の検討- 下斗米
身体所有感の拡張に及ぼす拡張対象の形状および布置角度の影響 -ラバーハンドイリュージョンによる検討- 中沢
カエル網膜神経節細胞における持続的なオフ応答の分析 -光刺激の条件による時間的特性の検討- 石金
他者情報提示に伴う社会的比較が幼児の抑制機能に与える影響 池田
日本の殺人事件における殺害動機と殺害方法の特徴 越智
自室のインテリア空間の好みと性格特性の関連 -好ましさ評価項目による評価構造図の作成- 高田
大学卓球選手の実力の発揮について 長田
音声の高さが文の想起に与える影響: 識別性効果における差動処理と特権的検索の比較 大久保
対人選択過程の現象学検討: 波長が合うとは何か 下斗米
ストレス喚起刺激が目撃者の有効視野に及ぼす影響 越智
自己複雑性と抑うつの関連についてのメタ分析―文化差の検討 国里
友人関係満足度と公的自己意識が自尊感情に及ぼす影響 -日本人大学生と在日中国人留学生との比較- 加藤
過去のネガティブな出来事の反復思考によるストレス反応の生起モデル 下斗米
大学生における「居場所」の心理的機能が対人ストレスコーピングに及ぼす影響 長田
推論開始時の処理は変更可能か? -並列処理仮説に基づく検討- 大久保
少女マンガから見るジェンダー -時代と共に移り変わる女性像- 高田
日常場面における展望的記憶と遂行機能の関連について 岡村
幼児の対人葛藤場面の解決方略 -場面に関与する人数の違いが方略に与える影響の検討- 池田
宮崎駿の病跡学 -「風立ちぬ」に見る人生の統合過程- 高田
両親の不和が青年期の交際関係に与える影響 松嶋
中学生における教師への信頼感が学校適応感に与える影響について 長田
順応水準の違いが網膜神経節細胞の時空間受容野に与える影響 -逆相関法による検討- 石金
画像の偶発記憶における色の典型性と誘目性の影響 中沢
本邦におけるノスタルジアな感情と機能的特徴 岡村
外集団理解における原因帰属と社会的アイデンティティの維持の検討 -異質さを乗り越えた融和に向けて- 下斗米
ジェンダー・タイプと大学適応感及び、創造的人格との関連についての研究 吉田
発達障がいリテラシー向上要因の検討 ~関連講義受講経験と情報入手の観点から~ 長田
社交不安に対する認知バイアス修正の効果に対するメタ分析: 文化差に注目して 国里
「第一印象が変わるということは何を意味しているのか -第一印象の再体制化時の心的過程および自己像の変容の検討-」 下斗米
自尊心と被受容感のバランスと感情表出との間にある関連について 松嶋
大学生におけるセクシュアル・マイノリティに対する意識と態度について -大学形態別の比較検討- 長田
ウシガエルにおける内因性光感受性網膜神経節細胞の検討 -赤色光を用いた応答特性の検証- 石金
オンライン調査における回答者のSatisfice行動 小杉
お世辞伝達における透明性錯覚および承認欲求との関連の検討 池田
手遊びが幼児の実行機能に与える影響 池田
三人での分配行動における公正観の影響 ~最後通牒ゲームを用いて~ 小杉
赤色系の色から感じられる味覚イメージは好き嫌いで違うのか 中沢
野球において人は流れを感じるのか? -通説・ジンクスを用いた検討- 大久保
観葉植物がVDT作業による疲労感を緩和させる可能性 中沢
心理学的ネットワーク解析を用いた社交不安症と対人恐怖症の比較 国里
同種他個体間および他種他個体間でのまばたきの同期 -ヒトとイヌを対象とした検討- 池田
自己ペース走の実施が心身に与える影響についての検討 岡村
口紅のパッケージの色による商品イメージと購買意欲への影響 中沢
社会的排除事態における自動性と自己抑制との揺らぎについての検討 下斗米
L-AP4を用いたウシガエル網膜における内因性光感受性神経節細胞の検討 石金
両親間葛藤の認知とレジリエンス、抑うつ、及び攻撃性の関連 吉田

修士論文(8件)

日韓比較を通した親からの期待認知が子どもの強迫傾向に及ぼす影響―親孝行に関する媒介効果の検討―

指導教員: 岡村

要旨を読む

日常生活において,私たちは毎日のように,窓を閉めたり,あるいはガスの元栓をしめるといった行為行っているが,ドアの鍵や窓,ガスの元栓などを閉めた後にも, 何度も確認したりするといった反復的な行為を行う人も少なくない。何度も確認しないと不安になり,確認を反復的にせざるを得ず,戸締り確認などに多い時間を費やしたりして, 日常生活に支障をもたらしている障害として強迫症がある(American Psychiatric Association, 2013; 李,2011)。強迫症の形成要因の一つである強迫観念は, 必ずしも病的なものではなく,健常者にも似たような傾向が見られると示された(Rachman & De Silva,1978)。こうした健常者に見られる強迫的な状態を,強迫傾向と呼ぶ。 強迫症の発症の原因としては,親の養育が挙げられている(李・山下,2008;吉田他,2001)。親が過剰に干渉したり,期待していると子どもが知覚しているほど, 強迫傾向が強まるとされている(ジョン,2011;西村,1999)。さらに,親の期待には文化差が存在しており,親の期待には親孝行という要因が関連していると考えられる。 本研究では,日韓比較を通した親からの期待認知が,強迫傾向にどのような影響を及ぼすのかについて検討する。また,強迫傾向と親からの期待認知との関連に, 親孝行が影響を及ぼしていると考えられるため,親孝行の媒介効果の検討を行う。異なる文化による親の期待認知が強迫傾向に影響するプロセスを検討し,親孝行を媒介分析することで, 将来的に強迫症の予防に役に立つこと,強迫症の考察を深めることを目的とする。 【方法】 強迫傾向の測定には,MOCIの邦訳版を用いた。親孝行の測定には,親への支援行動尺度を用いた。親からの期待認知の測定には,親の期待する内容の認知尺度を用いた。 【結果】 各変数における平均得点を用いて,t検定を行った結果,日本人大学生群と韓国人大学生群で差が見られ,韓国人大学生群のほうが,全ての変数において,平均得点が高かった。 次に,強迫傾向の得点と親の期待認知の得点の相関分析を用いて検討した結果,全参加者においても,各群においても,有意な関連が見られなかった。そのため, 親の期待認知と親孝行の下位尺度の得点と強迫傾向の得点の相関分析を行った。その結果,日本人大学生群では,親の期待認知の下位尺度である「自己実現」と「社会的受容」, 親孝行の下位尺度である「家族の絆を強める」に有意な相関が見られた。 韓国人大学生群では,強迫傾向の得点と親の期待認知の得点には有意な相関が見られず,強迫傾向の得点と親孝行の下位尺度である「経済的支援」に有意な傾向が見られた。 重回帰分析にて,強迫傾向に及ぼしている影響を調べると,日本人大学生群では,親の期待認知の下位尺度である「社会的成功」と親孝行の下位尺度である「家族の絆を強める」 にも関連が見られた。韓国人大学生群では,強迫傾向の得点と親孝行の下位尺度である「家族の絆を強める」に関連が見られた。最後に,媒介分析にて媒介効果の検討を行った結果, 全参加者においても,各群においても,媒介効果がみられなかった。 【考察・結論】 強迫傾向に寄与する親からの期待認知の内容には,日本と韓国で異なる内容を示していることが示唆された。また,日本と韓国の両群において,親の期待認知と親孝行には, 関連があることが示唆され,強迫傾向に寄与する親孝行の内容に日本と韓国で異なる内容を示していることが示唆された。さらに,強迫傾向と親の期待認知には, 親孝行が媒介していないことが示唆された。最後に,日本と韓国の両群において,家族の絆を強めるといったことは強迫傾向を下げるといった肯定的な効果をもたらすことが示唆された。


遂行機能と抑うつ傾向の関連について

指導教員: 岡村

要旨を読む

厚生労働省 (2018)が行っている「労働安全衛生調査」よれば,メンタル不調により連続1ヶ月以上休職又は退職した労働者がいる事業所の割合は事業所規模1000人以上の 事業所では91.9%であることや精神障害等の労災補償の支給認定件数が500件台を超え,社会的損失も膨大になっている(厚生労働省, 2019a)。 職場でのメンタルヘルスに対応するため,厚生労働省はラインケアなどを通じた事業所内の他者による支援を明記している(厚生労働者, 2019b)。 抑うつ状態にある労働者自身には自己の状況を抽象的に判断することが困難である傾向が指摘されているため(谷原・福崎, 2014),職場において管理監督者や衛生管理者が 労働者の状況を把握し援助を行うことが有益であると考えられる。このことから,特に「いつもと違う」部下の様子に早く気付くための行動が具体的に提示されているが, うつ病だけでなく,健康な人の抑うつ傾向や気分の変調によってどのような行動を取りやすくなるかについて知識を持つことも必要である。 遂行機能 (executive function)とは,予期,目標選択,プランニング,モニタリング,フィードバックの使用を含む,意図的な問題解決に関係する一連の能力である (Stuss & Benson, 1986)。 遂行機能の評価方法として,Frontal Assessment Battery (FAB),ウィスコンシン・カード分類検査(鹿島・加藤, 1995)など様々な方法があるが,机上の評価や構造化された場面では 観察することのできない生活上の問題を評価する事ができるものとしてBRIEF-Aがある。本研究では,健康な人の生活上の問題を評価するため,BRIEF-A日本語版(以下,BRIEF-A)を使って 遂行機能を評価する必要がある。 遂行機能とうつ病に関する研究において,遂行機能障害はうつ病患者で報告され,注意の切り替えによる困難が含まれていることが示されて いる(Murphy, Sahakian, Rubinsztein, Michael, Rogers, Robbins, & Paykel, 1999)。さらに,質問紙による研究においても遂行機能とうつ病に関連が見られ, BRIEF-Aとうつ病の臨床評価であるCAD(Bracken & Howell, 2004)の関連を調べた研究ではBRIEF-Aの「抑制」,「感情コントロール」のみがCADの 下位尺度と中程度に相関していた(Roth, Isquith, Gioia, 2005)。以上より,遂行機能とうつ病には関連があり,遂行機能の中でも特に「抑制」,「切り替え」, 「感情コントロール」が,うつ病に関係していると考えられる。しかし,健康な人の抑うつ傾向については検討がされていないため, POMS2日本語版(以下,POMS2)を使用し, 健康な人の抑うつ傾向や他の気分と遂行機能との関係も検討する必要がある。 本研究では,「抑うつ-落込み」とBRIEF-Aの下位尺度全てにおいて相関が見られたことから,抑うつ傾向と遂行機能の関連が示された。 さらに,抑うつ傾向に影響を与える要因を検討するため,「抑うつ-落込み」を基準変数,BRIEF-Aの下位尺度を説明変数とする重回帰分析を行った。その結果,BRIEF-Aの 下位尺度である「切り替え」「抑制」「発動性」がPOMS2の下位尺度である「抑うつ-落込み」を説明している可能性が認められた。このことから,抑うつや落込みのある人は 「切り替え」「抑制」「発動性」という遂行機能の低下が発現しているものと考えられる。うつ病患者は自己の状況を判断することが難しいため,職場において管理監督者や 衛生管理者が労働者の状況を把握する必要があることを考慮すると,本研究の結果である遂行機能の状態に注目することが指針になると考えられる。管理監督者や衛生管理者が この指針に沿って注意しながら部下の状態を観察することによって,部下のメンタルヘルス不調の早期発見に役立てられると考えられる。 さらに,本研究ではネガティブな感情が強い人は遂行機能に問題があるという関係があることが示された。感情・気分の障害と遂行機能障害はどちらも前頭葉という基盤が 同じであることが示されている。そのため,本研究において気分と遂行機能の関連が見られたことは,健康な大学生においても関連が見られ,怒りや敵意が高まっているときには 適切な判断ができなくなったり,混乱や当惑があるときには将来の展望が持てなくなってしまう可能性がある。したがって,抑うつだけでなく,このような気分の変化も整えていくことで, 遂行機能が高まることも考えられる。


時隔及び時間スケジュールの経験順序がオペラント行動に与える影響

指導教員: 澤

要旨を読む

(e.g., Eldridge et al., 1988; Zeiler, 1968)。一方, FTを用いた強化履歴研究において, FTで強化された行動とFIで強化された行動が同じであることの確証がない。 FIではオペランダムに対する個体の自発的な反応が強化されるが, Davis et al. (1973)や小野(1990)にもあるように, FTではあらゆる行動が強化される可能性がある。 そのため, Appel & Hiss (1962)やHerrnstein & Morse(1957), Zeiler (1968)のようなキーペッキングという単一の行動指標では, FIで強化されたオペランダムへの 反応の変容はわかってもFTで強化された行動の変容はわからないと考えられる。 そこで, 本研究ではEldridge et al. (1988)の実験事態をコンピュータ上で再現し, 時隔及び時間スケジュールの経験順序がオペラント行動に与える影響を検討した。 Eldridge et al. (1988)やZeiler (1968)のような単一の行動指標ではなく, 移動の軌跡やオペランダムに対する反応も含めた連続的な指標を分析対象とした。 それにより, これまでの強化履歴研究ではみられなかったトポグラフィーの体系的な分析を行うことが可能となる。このことから, FTによって強化された行動が何かを明らか にすることができるだけではなく, FTで強化された行動とFIで強化された行動の比較を行うことができると考えられた。仮説として, 反応率について, FIの方がFTより も高くなることが考えられた。強化履歴について, FIの行動がFTに影響するため, FIとFTの行動が類似すると考えられた。 本研究はオンライン実験であったため, 参加者は任意の場所と時間で実験課題を参加者自身のパソコンで行った。参加者は, 大学生6人(男性2人, 女性4人)で, 平均年齢は19.5歳(SD=1.26)であった。実験課題は, フリーオペラント課題と質問紙で構成し, それぞれUnity(ver. 2018.4.20f1)で作成した。5分間のフリーオペラント課題を行い, その後, 質問紙に回答させた。質問紙は3つの項目で構成され, ランプが点灯する条件があったかどうか, ランプが点灯する条件について, 得点を獲得するために行ったことを回答させた。フリーオペラント課題について, 3D空間上に7x7のフィールドを用意し, そのフィールド上に自機やスイッチ, 弁別刺激ランプ, 得点獲得用のスイッチを設置した。フィールド外には, 参加者が獲得した得点を表示した。教示として, 得点を多く獲得することと, 弁別刺激ランプが点灯する条件以外の操作方法を与えた。条件は2つあり, 1つはFT15s-FI15s-FT15sで, もう1つはFI15s-FT15s-FI15sであった。 結果, 反応率について, 6人中3人においてFIの方がFTよりも高く, 6人中3人においてFIとFTで違いはみられなかった。仮説と一致しなかった要因として, 教示によって生じるルール支配行動としてのトラッキングと強化スケジュールの影響が考えられた。スイッチを押すと反応するという教示は, 参加者に対してルール支配行動としてのトラッキングを生じさせたと考えられる。トラッキングの結果, スイッチを押すという行動が増加し, スイッチ押しの最中に強化子が随伴する経験をしたため, スイッチ押しが一定の反応率を保ったと考えられる。しかし, 途中でスイッチ押しに強化子が随伴しない 経験をするとスイッチに対して反応しなくなり, 結果として, FIの方がFTよりも反応率が高くなったと考えられる。 強化履歴について, 6人中5人においてFTがFIに影響を及ぼし, 6人中5人においてFIがFTに影響を及ぼした。仮説と異なりFTがFIに影響を及ぼした要因として, 自己ルールの影響が考えられた。5分ごとに得点獲得のために行った行動を記述させため, 自己ルールが生成され, その自己ルールに従った結果強化履歴が生じたと考えられる。 しかし, これはFIからFTに強化スケジュールが移行した場合でも同じことがいえる。そのため, 本研究でみられた強化履歴は, 随伴性形成行動による強化履歴の影響なのか 自己ルールによる強化履歴の影響なのかまではわからない。 強化履歴における結果は, これまでの単一の行動指標ではなく, 移動の軌跡やオペランダムに対する反応も含めた連続的な指標を用いた分析を行ったことによってみられた。 また, この結果は, 経験順序や強化スケジュールの経験時間や回数に関係なくみられた。このように, 個体の行動を定量的に分析できたことは, これまでの行動分析学で扱っていたオペランダムに対する反応率だけでは判断できなかった行動の体系化を可能にし, 個体の行動の変容を明らかにするための足掛かりとなるだろう。


Cognitive Refocusing Treatment for Insomnia (CRT―I)についての検討 ―複数の代替志向の使い分けおよび経時的な効果に注目して―

指導教員: 加藤

要旨を読む

日本人は睡眠で十分な休養が取れておらず、加えその数が年々増加しているということが示されている。これらの知見からは、今なお日本人の多くが、 睡眠に関する問題を抱えてしまっていることが推察される。そうした睡眠に関する問題は様々に存在するが、特に不眠症という問題が広く知られており、 不眠症の症状の中でも入眠障害という、眠りにつくことが困難になる症状の訴えが最も多い。入眠障害の要因は、その症状の原因となった要因と、 症状を維持させている要因の2つに分けて考えることができ、近年は入眠障害を維持させている要因である、入眠時認知活動への対応が主流となっている。 この入眠時認知活動への対応として、Cognitive Refocusing Treatment for Insomnia (以降、CRT-Iと略記)が提案されている。CRT-Iとは、当人にとって魅力的な内容であり、 感情的かつ生理学的な覚醒を引き起こさないような代替思考を用いて、睡眠に悪影響を与える入眠時認知活動から注意を逸らすことを目的とした介入方法である。 CRT-Iは既存の介入と比べ、当人が自ら考えた魅力的な内容である代替思考を用いるため、睡眠を阻害するような入眠時の侵入思考から容易に注意を逸らすことができると想定されている。 しかし、CRT-Iの効果については、検討が十分に行われていないという欠点が存在する。そのため、日本でもCRT-Iを実施することが可能なのかどうかは定かでない。 そこで本研究では、CRT-Iを実施することが日本でも可能なのか明らかにすることを目的として、CRT-Iの効果とその効果が出現するタイミングについて検討した。

睡眠衛生の遵守のみを行う対照群と、CRT-Iの実施及び睡眠衛生の遵守を行う実験群に参加者を分けた。そして、ベースライン調査で参加者に日本語版不眠重症度質問票と Pre-Sleep Arousal Scale日本語版について回答を求め、その約1ヶ月後に日本語版不眠重症度質問票とPre-Sleep Arousal Scale日本語版について改めて回答を求めた。 また、この約1ヶ月の間には3日に1日の頻度で、OSA睡眠調査票MA版についての回答を一人当たり最大で9回求めた。ベースライン調査時点と調査終了時点の2時点におけるISI-Jスコアについて、 実験群の対照群に対する優越率を計算したところ、ベースライン調査時点では対照群の方が日本語版不眠重症度質問票のスコアが高く、調査終了時点では実験群の方が 日本語版不眠重症度質問票のスコアが高いという結果が得られた。ベースライン調査時点から調査終了時点までの11時点では、CRT-Iの実施が、OSA睡眠調査票MA版の 「疲労回復」に負の影響を与え、「起床時眠気」や「入眠と睡眠維持」、「夢み」に対しても高確率で負の影響を与えたという結果が得られた。他にも11時点の結果からは、 実験条件の違いに関係なく、日々の睡眠感が不規則に推移していたことに加え、実験条件の変数以外に、曜日の変数が日々の睡眠間に影響を与えていたことも明らかになった。

ISI-JスコアやOSA睡眠調査票MA版における各下位因子の記述統計から、本研究の参加者は、不眠の重症度や日々の睡眠感についての問題が無い、 あるいは低い傾向にあったと言える。このような参加者の睡眠に関する特徴から、参加者が入眠時認知活動を生じさせたとしても、 その入眠時認知活動は睡眠に悪影響を与えるようなものではなかったと考えられる。したがって、2時点及び11時点の推定結果からは、 睡眠にあまり問題のない人にCRT-Iを実施すると、極少の影響しか与えられない、あるいは却って今までの睡眠を悪化させてしまうという可能性が示唆された。 また、日々の睡眠感の推移については、参加者全員が大学生であったことを考慮すると、日々の睡眠感が不規則な推移を示した原因には、授業や授業に付随する要素である試験や課題、 あるいはプライベートな出来事が関係している可能性が考えられた。


母親の育児不安と母性意識、特性的自己効力感、情報活用力との関連

指導教員: 吉田

要旨を読む

子ども側の特徴、ソーシャルサポートが指摘されている。母親側の特徴については、母性意識が育児不安と関連があることが明らかにされている(坂東,2017)。また、 自己効力感が低い傾向にある母親は、育児が困難な傾向にあることが報告されている(宮岡ら,2010)。以上の要因に加えて、近年では育児期の母親の情報の取り扱いについて、 マイナスの影響を与えている場合には育児不安を高める方向に作用している可能性が指摘されている(荒牧・無藤,2008)。本研究では、育児不安と母性意識、特性的自己効力感、 及び情報活用力との関連を検討すること、及び、育児不安に対する母性意識、特性的自己効力感、及び情報活用力の影響について検討することを目的に研究を行った。対象者は、 1歳半児を育てている母親23名、2歳児を育てている母親57名であった。方法としては、質問紙とグーグルフォーム上の質問紙を用いて質問紙調査を行った。質問紙は、 ①フェイスシート、②吉田(2013)の1歳半児と2歳児の母親用「育児不安尺度」の中の「育児不安」因子の項目、③大日向ら(1988)らの「母性意識尺度」の項目、 ③成田ら(1995)の「特性的自己効力感尺度」の項目、④高比良ら(2001)の「情報活用の実践力尺度」の下位尺度である「情報収集力」、「情報判断力」、 「情報処理力」の項目で構成されていた。 その結果、積極的・肯定的母性意識が高いほど育児不安が低いことが1歳半児と2歳児の母親で確認され、さらに、積極的・肯定的母性意識が育児不安に対して 負の影響を与えていることが2歳児の母親で確認された。この結果については、積極的・肯定的母性意識が高い母親はその肯定的感情が高いことにより育児に関連する様々な 不安がある日々の生活においても肯定的に受け止めることで育児不安が低かったと考えられる。また、母親が母親である自己を受容していることや育児をしている生活において 充実感を感じており、そのために育児不安が低いことが考えられる。一方で、1歳半児・2歳児の母親において、消極的・否定的母性意識が育児不安との間に正の相関が確認された。 この結果については、母性意識の低いことや母親役割の受容感が低いために母親役割の遂行が消極的になっており、遂行できない自信のなさにより育児不安が高い可能性が考えられる。 これらのことから、消極的・否定的母性意識が低い母親は、母親役割受容の問題をかかえており、そのため子育てに満足していないことが育児不安に影響を及ぼしていると考えられる。 特性的自己効力感と育児不安の関連については、1歳半児と2歳児の母親において、特性的自己効力感が高いほど育児不安が低いということが確認された。この結果については、 子育ては未経験の状況であるといえ、特性的自己効力感が機能する状況であることから、特性的自己効力感の高い母親は育児不安が低いと考えられる。また、 特性的自己効力感が育児不安に対して影響を与えていることが確認された。この結果については、今回対象とした母親は特性的自己効力感が形成途中であるため、 特性的自己効力感が育児不安に対して影響を持つほどに高くは形成されていなかったことにより、影響が確認されなかったと考えられた。特性的自己効力感と育児不安の因果関係については、 特性的自己効力感から育児不安へという一方向ではなく、育児不安が特性的自己効力感に対して影響を与えているという方向についても検討していく必要があると考えられる。 情報の活用力と育児不安との関連については、情報活用力の処理力が高いほど育児不安は低いという結果が1歳半児の母親で確認された。この結果については、収集した子育てに関する 情報を自分の子育てに適切に使っている母親ほど、育児不安が低いことを表していると考えることができる。2歳児の母親においては、情報活用力の収集力が育児不安に対して 負の影響を及ぼしていることが確認された。この結果については、情報を得ることで子育ての不安が軽減される可能性を表していると考えられる。本研究結果は、育児情報を適切に 収集するとともに、必要な情報を適切に選択し、自らの子育てに使うことが育児不安の軽減に役立つことを一部分ではあるものの示したといえる。情報の活用力と育児不安と関連については、 明らかにしなければならない多くの課題が残されている。


過剰適応に対する他者スキーマとアタッチメントの影響

指導教員: 吉田

要旨を読む

過剰適応に影響を及ぼす要因として行為者である本人の自信のなさや自尊感情の低さといった自己への不全感が想定されてきた (風間, 2015)。 しかしパーソナリティの要因だけでなく、他者認識の側面を要因として捉え、関連を検討する必要が指摘されていた (風間, 2015; 益子, 2016a)。 過剰適応とアタッチメントについての先行研究では、アンビバレントの傾向が高いことが過剰適応に特に強い影響を与えていることが指摘された。本研究では、 他者認識である他者に対するスキーマと、他者の見方を反映したアタッチメントが過剰適応に対してどのような影響を及ぼしているかについて明らかにすることを目的とした。 大学生及び大学院生206名を対象に、「青年期前期用過剰適応尺度 (石津, 2006)」、「日本版Brief Core Schema Scale (内田他, 2012)」、「成人版愛着スタイル尺度 (詫摩・戸田, 1988)」 の3つの尺度を用いて質問紙調査を行った。 その結果、他者スキーマの「他者ポジティブ」が、過剰適応の「自己不全感」に対して、負の影響を与えていることが確認された。この結果については、 幼少期に適切な賞賛や応答が自己の評価の安定を維持していることから (Kohut, 1971 水野・笠原監訳 1994) 、他者からの受容経験が、「他者は自分を適切に評価し、求めてくれる存在」 というポジティブな認知につながり、自己肯定感が高めることにつながったと考えられた。一方で「他者ポジティブ」が、「他者配慮」に対しては正の影響を与えていることが明らかになった。 この結果については「他者配慮」は、「人がしてほしいことは何かと考える」など、社会生活で、適応していくにはある程度持ち合わせなければならない気遣いが含まれることから、 他者に対してのポジティブな認識が高いほど、相手との円滑なコミュニケーションを図るための方略として、他者配慮の傾向が高くなったと考えられた。他にも「他者ネガティブ」が 「自己不全感」に正の影響を与えていることが確認された。この結果については、他者を否定的に捉えたり、ネガティブな信念を持っていることが、「自分のあまり良くないところばかり 気になる」という自分自身に対するネガティブな捉え方につながっていると考えた。 過剰適応とアタッチメントの関連については、アタッチメントの「安定性」が、過剰適応の内的側面である「自己抑制」、「自己不全感」に対して負の影響を与えていた。 この結果については、安定性が高い人は、自分を愛し続けてくれることを確信し、自分を否定的に捉える傾向はが少ないことから (鈴木・塚野, 2017) 、他者に応えてもらえないことを 恐れて自己を抑制したり、自己不全感を抱くこととは、負の関係にあるとする結果が得られたと考えられた。さらに「両価性」は過剰適応のすべての因子に影響を与えていた。 この結果については、両価性は人から好かれているか自信がなく、他者の顔色を窺って自己を抑制する特徴があるため、拒絶されるのではないかといった不安から自分の要求を抑制し 、同時に不全感を感じながら他者の要求を優先する過剰適応の傾向が強いことが考えられた。さらに、「回避性」は「自己抑制」、「自己不全感」に正の影響を与えていること も明らかになった。この結果については否定的自己イメージの回復には、他者からの肯定的なフィードバックが重要であるが (細田・田嶌, 2009)、他者と距離を置くことを好む回避性は、 肯定的なフィードバックを受け取るという経験が少なく、自己に対する否定的な捉え方を肯定的な方向に転じる機会が得にくい可能性を反映していると考えた。 アタッチメント得点から「安定群」、「両価群」、「回避群」の3つのアタッチメントスタイルに分類し、各スタイル間の過剰適応の差異を検討した結果では、「自己不全感」、 「期待にそう努力」、「人からよく思われた欲求」で、「両価群」が最も高い傾向がみられた。この結果については、「両価群」は、他者に接近したい欲求がある一方で、 相手の顔色に敏感で、拒絶されたり見捨てられることに不安があるので、自己の肯定感が下がったり、自分を抑制してでも他者を優先しようとする行動をとる傾向が高いことを反映している と考えられた。さらに、他者スキーマとアタッチメントの交互作用については、「期待にそう努力」に対して「他者ネガティブ」と「両価性」の交互作用が有意であった。この結果については 、他者の言動に影響を受けやすく、自己不全感の高い両価性のアタッチメントが強い傾向、自身が受け入れられなかったというネガティブなそれまでの経験から、 他者への認識や信念を否定的なものとして捉えやすい傾向が作用しあって過度に相手の期待に応えようと努力することが多くなるのではないかと考えられた。今後の課題としては、 所属する集団に対する認知を明らかにした上で、所属する集団によって過剰適応に違いがあるのかについて検討する必要があると考えられる。


大学生における自殺の対人関係理論と死生観との関連について

指導教員: 加藤

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Joiner, Van Orden, Witte & Rudd(2009)が提唱した『自殺の対人関係理論』が注目を集めている。『自殺の対人関係理論』とは,「負担感の知覚」「所属感の減弱」 「身についた自殺潜在能力」の3要素で構成され,これらの要素がすべて高まると致命的な自殺企図や自殺既遂に至るとする理論である。日本では,相羽・太刀川・Lebowitz(2019)によって, 【負担感の知覚】と【所属感の減弱】を測定する,対人関係欲求尺度 (Interpersonal Needs Questionnaire : 以下INQ ; Van Orden, 2009)と【自殺潜在能力】を測定する, 身についた自殺潜在能力尺度 (Acquired Capability for Suicide Scale : 以下ACSS ; Ribeiro, 2011)の日本語版の妥当性の検討を行ったのみである。『自殺の対人関係理論』 を実際の治療場面で使用する場合,ライフイベントや生育環境によって形成される個人の認知の影響を大きく受ける【負担感の知覚】と【所属感の減弱】が重要であると考えられる。 この個人の認知として本研究では,文化的・宗教的影響を強く受ける『死生観』に注目する。外国で開発された『自殺の対人関係理論』が日本における自殺リスク評価ツールとしての 有効性を検討する上で,文化的・宗教的影響を強く受ける『死生観』を考慮することは重要であると考えられる。 日本において,自殺リスク評価ツールの有効性を検討するため,『自殺の対人関係理論』と『死生観』との関連を明らかにすることを本研究の目的とした。 具体的には,日本人大学生を対象とし,『自殺の対人関係理論』の主要な3要素【負担感の知覚】【所属感の減弱】【自殺潜在能力】が,文化的影響を強く受ける個人の認知である 『死生観』の影響を受けているのか明らかにすることを目指した。 大学生を対象に,Google formを用いた質問紙調査を行い,計163名(平均年齢=19.93歳,SD=1.43)を分析対象とした。調査用紙(Google form)として, 平井・坂口・安部・森川・柏木(2000)が開発した死生観尺度の7つの下位尺度27項目,相羽 他(2019)が邦訳したINQ-10の2つの下位尺度10項目, 相羽 他(2019)が邦訳したACSS-20の20項目を使用した。 各尺度間の関連を検討するために,相関分析を行った。死生観尺度を【死後の世界観】【死への恐怖・不安】【解放としての死】【死からの回避】【人生における目的意識】 【死への関心】【寿命観】の7つの下位尺度,INQを【負担感の知覚】【所属感の減弱】の2つの下位尺度にそれぞれ分けた。また,ACSSを【自殺潜在能力】を1つの尺度とした。 これらの7,2,1からなる10の下位尺度・尺度の間で相関係数を算出したところ,『自殺の対人関係理論』と『死生観』で相関関係が認められた。その後, 『死生観』が『自殺の対人関係理論』に及ぼす影響を検討するため,死生観尺度の下位尺度を独立変数として,INQ【負担感の知覚】を従属変数とした場合, INQ【所属感の減弱】を従属変数とした場合,ACSS【自殺潜在能力】を従属変数とした場合の3回に分けて,重回帰分析を行った。 3回の重回帰分析の結果から,日本の大学生を対象にした場合,文化的影響を強く受ける個人の認知である『死生観』は,自殺リスク評価ツールである 『自殺の対人関係理論』の主要な3要素のうち,INQ 【負担感の知覚】に強く影響を与えることが示された。【解放としての死】【死からの回避】 【寿命観】という死生観を持つ日本人大学生は,周りに迷惑をかけたくないという考えが強く,【人生における目的意識】という死生観を持つ日本人大学生は, 周りに迷惑をかけたくないという考えを持ちにくいと言える。この結果は,東洋と西洋で異なる,宗教や慣習などの文化差が影響していると考えられる。 本研究の対象であった日本人は,仏教の宗教観を強く持っており,人と協力したり,関係を持つことで自己観を形成していく,東洋の相互協調的自己観(Kitayama & Markus, 1999)が 優勢であったと考察した。この相互協調的自己観は第三者との関係性を重視しているため,「まわりの人に迷惑をかけたくない」という心情が根底に含まれるINQ【負担感の知覚】 に影響を与えたと考えられる。以上のことから,『自殺の対人関係理論』を実際に自殺リスク評価ツールとして使用する際,対象者の文化的背景を考慮する必要性が示唆された。


正・負の理想―現実自己のズレが自尊感情に与える影響を緩和する要因の検討―セルフ・コンパッションに着目して―

指導教員: 高田

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本邦においても,遠藤(1992a)は,正の理想-現実自己のズレと自尊感情との間に負の相関関係が成立することを示唆する結果を得ている。新井(2001)は, 適応的な状態を目指して直接的に理想自己の低下や現実自己の向上を図るのではなく,理想-現実自己のズレが適応に与える影響を緩和するような要因に着目するのが有効であるとしている。 そこで本研究では,その要因としてSCを取り上げた。日本語で慈悲とも訳されるSCは,自尊感情を統制しても自己像の不安定性と負の相関があり(Neff, 2003b ; Neff & Vonk, 2009), これは,苦しんでいる自己に愛情を注ぎ,人としての不完全さを認めるSCの機能によると考えられている(Neff, 2009)。これらのことから, 本研究では,SCが正・負の理想-現実自己のズレによる自尊感情への影響を緩和する要因となり得るかを検討することを目的とした。 本調査では,18~28歳の244名を対象に,自尊感情尺度,日本語版セルフ・コンパッション尺度,正・負の理想-現実自己のズレを測る項目, 高目標傾向・失敗過敏傾向・自己疑念傾向を測る項目等により構成された質問紙調査を行った。正・負の理想自己の弁別をしていなかった 29人のデータを除き,正・負の理想自己との接近・回避の重要度の違いにより群分けをしたところ,正>負重要群が82名,負>正重要群が45名, どちらも重要群86名,どちらも重要でない群2名の4つに分かれた。媒介分析を行ったところ,いずれの群においても,正の理想-現実自己のズレと自尊感情の関係は, SCを媒介しない直接的な影響と,SCを媒介する間接的な影響のどちらもあることが示唆された。一方で,負の理想-現実自己のズレと自尊感情の関係は,正>負重要群の場合, 直接的に影響しているというよりも,SCを媒介して間接的に影響している可能性があることが示唆されたが,負>正重要群の場合は,SCによって媒介されないことが示唆された。 どちらも重要群では,負の理想-現実自己のズレが自尊感情に影響しないことが示唆された。以上より,いずれの群においても,自尊感情,SC, 正の理想-現実自己のズレの関係は同様のものであったが,自尊感情,SC,負の理想-現実自己のズレの関係は各群によってそれぞれ異なることが示唆された。 前者に関して,正の理想-現実自己のズレと自尊感情の影響関係に対しては,正の理想への接近と負の理想からの回避についてどのように重要視していても, SCを向上させる介入の有効性があるという点は変わりない可能性が示唆された。そして後者に関して,負の理想-現実自己のズレと自尊感情の影響関係に対しては, 正の理想への接近と負の理想からの回避についてどのように重要視しているかによって,SCを向上させる介入が有効な場合とそうでない場合がある可能性が示唆された。


博士論文(1件)

臨床場面を想定した恐怖条件づけ事態における復元効果の検討およびエクスポージャー技法の効果を向上させる新たな連合学習モデルの提案

指導教員: 澤

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減少を促進することを目的として行われた。研究1では条件刺激(CS)および無条件刺激(US)に社会的刺激を用いた恐怖条件づけ事態において,消去後に条件づけ文脈へ 戻ることによって生じる条件反応の再出現であるABA復元効果が出現するかを検証した。本実験事態は社交不安の獲得およびエクスポージャー技法を用いた介入による社交 不安の減少に関する実験室アナログ事態であることから,本実験におけるABA復元効果の出現は社交不安への介入後の再発と強く関連すると考えられる。大学生を対象として 実験を行った結果,US予期指標においてABA復元効果が確認された。しかしCS感情価指標においては出現しなかった。この結果は感情価指標の測定に関する方法論的な問題や 予期学習と評価学習の差異に関する理論的な議論は必要であるものの,社交不安の介入後に生じる再発にABA復元効果が関係している可能性を強く示すものである。 研究2では,臨床場面の実験室アナログ事態で得られたABA復元効果のデータと既存の連合学習モデルによる予測の一致度を検証した。 これまでABA復元効果の説明として,Rescorla-WagnerモデルとBoutonのモデルが広く用いられてきたため,両者のモデルを統計モデルとして記述し, 研究1で得られたデータを用いて事後予測分布を求めた。その結果,両モデルとも概ねデータと一致した事後予測分布が得られた。この結果は, 使用した2つのモデルともエクスポージャー技法後の再発を定量的に理解できる可能性を示している。加えてモデル比較を行い,より妥当と評価されたモデルの パラメータと社交不安の個人差の相関関係を探索的に検討した。その結果,モデル比較の結果は一貫しなかった。そのため両モデルそれぞれで,推定されたパラメータと 社交不安間の相関関係を検討した。相関分析の結果,両モデルともにモデルで用いられたパラメータと社交不安の個人差間の相関は小さいことが示された。 本分析は探索的な検討ではあるものの,本実験事態における学習と社交不安の個人差には強い関係が無い可能性を示している。 研究3では,従来統一的に扱うことが困難であった消去の効果の促進をもたらす諸現象と消去後に生じる反応の再出現に関する諸現象を, 定量的に説明および新たな現象を予測可能な連合学習モデルの提案を行った。本モデルの特徴として,消去時に形成される制止性連合の漸近値が 消去文脈下で検索される興奮性連合の強度の絶対値と一致すること,そしてその検索の程度は文脈間の類似性という概念によって決定されることが挙げられる。 これらの仮定を加えることにより,多くの現象を統一的に扱えることがシミュレーションによって示された。エクスポージャー技法の作用機序を消去手続きによる 反応減弱とみなす場合,本モデルをエクスポージャー技法の作用機序とすることで,介入効果を促進するための手法を多く演繹することが可能となる。 研究4では研究2で用いた2つのモデルと研究3で提案したモデルによる予測がABA,ABC,AAB復元効果を検証した実験データとどの程度一致するかを検討した。 その結果,全てのモデルにおいてデータの傾向と概ね一致することが示された。しかしRescorla-WagnerモデルとBoutonのモデルでこれらのデータを扱うためには, 元のモデルの仮定とは異なる,あるいは従来の実験知見と一致しない仮定を用いる必要があることが示された。このことは,従来三種の復元効果を扱うことが困難である とされたモデルであったとしても,仮定を変化,あるいは追加することで扱えるようになる可能性を示している。一方で新たに提案したモデルではそうした仮定の変化や 追加は必要とせずに,データとおおむね一致した事後予測分布が得ることが可能であった。このことは,定量的な予測という観点からも新たに提案したモデルは妥当である ことを示している。 これらの研究の結果は,エクスポージャー技法後に生じる不安や恐怖の再発に復元効果が強く関連していること, そうした再発を従来の連合学習モデルで定量的に扱えることが可能であることを示唆している。加えて,新たに提案したモデルをエクスポージャー技法の作用機序 とみなすことで,介入効果をこれまで以上に向上させることができると考えられる。